音楽療法同行インタビュー研究への道 その1 (伊藤)

公開日:
更新日:
#プロセスとしての時間
#研究の方法
#音楽療法とは
伊藤 孝子
名古屋芸術大学教員。日本音楽療法学会認定音楽療法士。音楽療法グループ「マイエ」代表。
個別音楽療法室の外側で
私はこれまで、主に勤務先の大学内の一室で、個別音楽療法の実践に携わってきた。20年以上にわたる継続の中で、一度部屋の移動はあったものの、基本的には同じ場所でクライエントを迎え続けている。
クライエントとその家族は、いつも同じドアから入り、同じドアから帰っていく。それが当たり前の風景だった。少なくとも初めのころは、私はそのことに特別な関心を抱いてはいなかった。
20年前に出会ったクライエントも、今では成人している。現在も変わらず、同じドアから入室し、30分ほどの音楽療法の時間をともに過ごし、そしてまた同じドアから帰っていく。
しかし年月を重ねる中で、多くのクライエントやその家族が、セッションの「外側」の出来事について語ってくれるようになった。たとえば、家庭で音楽療法の予定がどのように話題にのぼるのか。ここへ向かう道中、歩きながら、あるいは車中でどのようなやりとりが交わされているのか。そしてセッション後、帰り道や家庭、施設の中で、音楽療法の経験がどのように語られているのか。
音楽療法士の実践の外側で
すこし話は変わって、私の音楽療法仲間について。
フリーランスで活動する彼女・彼たちは、毎週、施設や病院、個別音楽療法室、個人宅など、さまざまな場所へ移動しながら実践を展開している。週に一度ほど集まる機会には、自然と情報交換が行われる。セッションの悩みや今後の見通しについての相談など、話題の多くは音楽療法実践の「内側」に関わるものである。
一方で、それ以外の時間、たとえば移動経路の工夫や作業にちょうどいいカフェの情報、車中での過ごし方といったことが話題にのぼることもある。しかしそれらは、あくまで実践の「内側」を支える付随的なものとして語られてきた。
けれども実際には、彼女・彼たちは複数の現場での実践時間と同じか、あるいはそれ以上の時間を、移動や記録、楽器の運搬といった活動に費やしている。こうした時間がなければ、各現場での音楽療法実践そのものが成立しないことは明らかである。
チャッピーに聞いてみた
そうした中で、私自身の関心がむくむくと顔をもたげてきた。
クライエントさんの音楽療法室への道中について行ってみたい。フリーランスの音楽療法士の移動のプロセスを見てみたい。
これまであまり目を向けられてこなかった、いわゆる音楽療法実践の時間枠の外側に、もしかしたら音楽療法とは何か考える重要なヒントが潜んでいるのではないか。
しかも、それはインタビューだけではなくて実際に同行することに意味がある気がする。そう思い、ある日chatGPT(以下、チャッピー)に質問してみた。
私:音楽療法士やクライエントの道中についていくような研究ってないよね?
チャッピー:あるよ。音楽療法に限らずだけど、「道中についていく」タイプの研究は、いくつかの方法論としてすでにある。
そして以下の3つの分野を紹介してくれた。
同行インタビュー(go-along / walking interview)
研究者が対象者と一緒に移動しながら、その場その場で話を聞く方法。
モビリティーズ研究(mobilities research)
もう少し広い枠組みで、「人が移動すること自体」をテーマにする研究領域。
エスノグラフィー(特にシャドーイング)
研究者が対象者に張り付いて一日を追う方法。
私が知らなかっただけで、すでにこうした方法はあった。研究者たちは日々、試行錯誤しながら蓄積を重ねている。
つづく