【話題提供3】内側からみる・一緒に見る・そして変化を共に創る~参加型研究(CBPR)の試み~ |第26回日本音楽療法学会自主シンポジウム(小柳玲子)

【話題提供3】内側からみる・一緒に見る・そして変化を共に創る~参加型研究(CBPR)の試み~ |第26回日本音楽療法学会自主シンポジウム(小柳玲子)

公開日:

2026.10.23

    更新日:

    2026.10.23

      • #関係性

      • #研究の主体

      • #研究の方法

      • #研究の伝達

      この度、りんこまのメンバーに声をかけていただき、細々と温めてきた研究への思いや、これまでの試行錯誤についてお話しする機会をいただきました。このシンポジウムへの参加が、研究の歩みを後押ししてくれました。感謝を込めて、今回の発表内容を振り返ります。

      音楽療法士として20年以上実践してきた経験を、自分の足元である地域でも生かせないか。そう考えて7年前に立ち上げたのが、音楽を中心に置く地域拠点「おとむすび」です。今後もこの拠点を続けていくために、参加者がここで何を経験し、何を求めているのかを知りたいと考えていました。

      おとむすびでは、支援する側とされる側を固定化しない場づくりを心掛けています。そのため、研究によって「研究する側/研究される側」という関係が生まれることに違和感があり、なかなか踏み出せずにいました。おとむすびを参加者と一緒に内側から「見る」ことはできないだろうか、と考えていたのです。

      「参加型研究」との出会い

      そんな中で出会ったのが、CBPR(Community-Based Participatory Research:コミュニティ基盤型参加型研究)です。研究対象となる人を単なるデータ提供者ではなく、研究の問いや知識生成に関わる共同の担い手として位置づける研究アプローチです。循環プロセスは提示されていますが、具体的な方法は固定されておらず、参加者との関係性を基盤に進めます。この考え方なら、参加者と共に探究できそうだと思いました。

      ただ、これまで主に実践家として活動してきた私にとって、研究に時間とエネルギーを割くことはハードルが高いものでした。それでも、知りたいことがあり、試してみたい方法もある。少しずつ動いてみようと気持ちが固まっていきました。

      そして…動き出してみた

      一定の条件を満たす「おとむすび」の常連さん5名に声をかけ、OKK「おとむすびのことを考える会」ができました。形式としてはフォーカスグループインタビューに近いですが、私も参加者として語り、参加者同士で経験や意味を持ち寄る対話的な場となるよう心掛けました。対話の進行は参加者同士の相互作用に委ね、話題が自由に展開していくことを大切にしました。脱線も多くありますが、毎回そうした会話の中から思いがけず核心をつくキーワードが浮かび上がってくることが不思議で、参加者のもつ力への確信が深まっていきました。

      分析への不安

      この対話は楽しく手応えもありましたが、分析という次の段階には不安がありました。研究者が分析し、参加者に確認してもらうのではなく、分析自体に参加者が関わる方法はないだろうか。そして何より、語られた宝物のような言葉を、一度参加者に「お返し」したいと思いました。

      そこで行ったのが、カード化です。対話の中で、メンバー同士の反応が広がった言葉、繰り返し語られた言葉、話の転換点となった言葉、対話の内容を象徴する言葉などを基準に、特定の人の発話に限定されないように言葉を選び、40枚のカードにしました。

      一緒にみる

      メンバーに気になったカードを選んでもらい、選んだ理由を語ってもらう。それを繰り返しているうちに、「この言葉とこの言葉は『近い』ね」などの発見があり、いつの間にかカードの島づくりが始まりました。質的研究でいうところのカテゴリー分けにも似た作業が自然発生したのです。そうしてカードを行き来させることが、言葉の意味を捉え直すことになり、対話のリフレクションをメンバーみんなで一緒に行ったとも言えます。メンバーからも「言葉をあらためて拾い直しシェアする作業に感動した」などの声があがりました。

      研究方法に対する揺らぎ

      回数を経るに従い、OKKで集まること自体が、おとむすびの新たな活動になっているように感じ、研究と実践が地続きである感覚を持ちました。一方で、確立された手順がないので、先が見えない不安もあります。そんな時、CBPRについての文献で出会った「人々についてでも、人々のためでもなく、人々とともに行う研究」という言葉が私の背中を押してくれました。

      CBPRの循環プロセスの「実践への還元」という段階に、このメンバーとならいつか到達できるのでは、と期待しています。それも、参加者との対話の中から、いつの間にか生まれてくるのかもしれません。