【話題提供2】セッション時間枠の外から音楽療法を捉える質的試み ~ Go-alongインタビュー |第26回日本音楽療法学会自主シンポジウム(伊藤)

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#関係性
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伊藤 孝子
名古屋芸術大学教員。日本音楽療法学会認定音楽療法士。音楽療法グループ「マイエ」代表。
今回私は、話題提供者の一人として、ひとりの音楽療法士の仕事の一日に同行するインタビューの試みをご紹介しました。ここでは、その内容を文章を中心にまとめています。
実践時間の外側から音楽療法について考えてみたい
私は所属する大学で卒業生とともに音楽療法グループを20年ほど運営し、実践を続けてきました。そのような立場もあって、日頃から音楽療法士の仕事について話を聞く機会が多くあります。
もちろん、セッションの中で起きたことについての話もたくさんありますが、それと同じくらい、実践に向かうまでのことや移動中の出来事、日々の悩みや工夫についても話題になります。
現場から現場へどのように移動するか、途中でどこのカフェに寄るかといった、一見すると音楽療法とは関係のなさそうな話もあります。しかし、そんな何気ない話の中に、その人なりの判断や価値観、音楽療法士としてのあり方がにじみ出ているように感じることがありました。
音楽療法の研究では、どうしてもセッションの時間内に起きていることに注目が集まりがちです。また、何をどのように見るべきかがあらかじめ決まっているように感じられ、そこから外れたことはなかなか重要なものとして捉えられない。そんな物事の見方に、私は以前からちょっとした息苦しさを感じてきました。セッションの時間枠の外にも目を向けることで、これまでとは少し違う音楽療法の輪郭が見えてくるのではないか。
そんな好奇心から、今回の研究は始まりました。
音楽療法士の一日についていってみたい
そもそも私の仕事の大半は大学の中で行われるため、音楽療法の実践について、自分自身の視野がなかなか広がらないことを何とかしたいと思っていました。
そんなこともあって、研究として考える以前から、他の音楽療法士の実践を見せてもらいたい、できれば実践の場だけでなく、そこに向かう道中にもついていってみたい、という思いがありました。
この素朴な好奇心を、何か研究につなげることはできないだろうか。そう考えて方法を探しているうちに出会ったのが、「Go-alongインタビュー」という質的研究法でした。
Go-alongインタビューは、研究協力者と一緒に移動しながら、その場で起きる出来事や経験について話を聞いていく方法です。研究者が外側から観察したり、あらかじめ用意した質問を投げかけたりするだけではなく、研究協力者に案内されながら、ともに時間や場所を経験していきます。
私が特に魅力を感じたのは、この「案内される」という関係です。
研究者が一方的に相手のことを知ろうとするのではなく、ともに動き、対話する中で何かが見えてくる。そうした考え方が、自分のやってみたい研究にとても近いと感じました。
始めてみよう、でもどうやって・・・?
Go-alongインタビューについて文献を調べてみると、統一された具体的な手順があるわけではなく、研究の問いや対象、状況によってさまざまな方法が用いられていることがわかりました。
以前の記事
https://preview.studio.site/live/YPqrpMwmW5/journal/posts/go-along-interview1_itoh
https://preview.studio.site/live/YPqrpMwmW5/journal/posts/go-along-interview2_itoh
そこで、まずは「音楽療法士の一日についていく」という形を大切にして、自分なりの方法を考えてみることにしました。
ただ、実際に研究を始めるためには、倫理審査を受ける必要があります。探索的な研究であっても、研究目的や対象、方法を事前に説明しなければなりません。まだ何が見つかるかわからないからこそ始めてみたいのに、あらかじめ何を明らかにするのかを説明する必要がある。ここに最初の難しさがありました。
また、今回は音楽療法士の一日に同行することを主なフィールドとし、セッション中の出来事そのものはデータ収集の対象にしないことにしました。しかし実際には、セッションの前後に起きることと、セッションの中で起きることは、必ずしも明確に分けられるものではありません。研究としては境界を引かなければならない。でも、実践そのものはその境界どおりに分かれていない。そんなジレンマも抱えながら、研究を始めることになりました。
思いがけない対話に心が動かされた
最初に同行をお願いしたのは、実践経験約20年のフリーランスの音楽療法士です。以前から面識があり、その方の実践や考え方に関心を持っていました。研究協力者の車に同乗し、実践の現場への移動や準備、実践前後の時間をともに過ごしました。
インタビューでは、あらかじめ細かい質問項目を決めず、その場で起きた出来事をきっかけに対話を進めました。ある施設に向かう約50分間の車中では、最初は昼食をどうするか、仕事の時間が一定ではないことなど、ごく日常的な話から始まりました。
そこから移動経路や時間の使い方、車に積んでいる楽器の話へと展開していきました。研究協力者は車のトランクを「デフォルト楽器庫」のようなものだと表現していました。基本となる楽器や楽譜を常に積んでおき、その日の現場に応じて必要なものを追加していくのだそうです。
興味深かったのは、単なる車の荷物の話が、音楽療法のプログラムをどのように組み立てるかという話につながっていったことです。プログラムをあらかじめ固定しすぎず、いくつもの選択肢を持って現場に向かうこと。その場の状況に応じて、それらを組み合わせていくこと。
さらに話題は、音楽によって人と人がつながることもあれば、隔たりが生まれることもあるという話や、音楽とは何か、誰が音楽にアクセスできるのかといった、より根本的な問いにまで広がっていきました。
こうした話を最初から質問項目として用意していたわけではありません。一緒に移動し、その場の出来事について話していたからこそ、思いがけない対話が生まれたのだと感じています。
「知らない」という姿勢の大切さ
今回、実際に同行してみて強く感じたことの一つは、研究協力者と研究者の関係性そのものが、この研究に大きく関わっているということです。今回の研究協力者も私も音楽療法士です。共通する知識や経験があるからこそ深まる対話もありますが、一方で「わかっているつもり」になってしまう危険もあります。
そもそも私には、研究する者が音楽療法について一方的に意味づけを行うことへの疑問がありました。研究者と実践者の間にも、「知る側」と「知られる側」という非対称な関係が生まれてしまうことがあります。
だからこそ、今回の研究では、相手の実践について「私はまだ知らない」という立場を大切にしたいと考えています。今回同行させてもらったのは20年来の付き合いがある音楽療法士ですが、それでも、まだ知らないことがたくさんあるのだと実感しました。
研究者が何かを明らかにするために相手を観察するだけでなく、相手に案内してもらいながら、その人が経験している世界に近づいていく。そこで知ることは、必ずしも言葉で説明できることばかりではないと思います。そして、その過程で研究者自身の理解も揺さぶられたり、変化したりする。
そんな経験そのものを大切にする研究をしていきたい。今回の自主シンポジウムでの試みを通して、そんな思いを新たにしました。
他のメンバーの内容についてはこちら
企画趣旨(田原)
https://preview.studio.site/live/YPqrpMwmW5/journal/posts/JMTAsymposium2026_OVERVIEW話題提供1(生野)https://preview.studio.site/live/YPqrpMwmW5/journal/posts/JMTAsymposium2026_topic1
話題提供3(小柳玲子)
coming soon・・・指定討論(三宅)
https://preview.studio.site/live/YPqrpMwmW5/journal/posts/JMTAsymposium2026_discussion