【指定討論】質的研究の舞台裏:知りたいことを知るための研究方法をめぐる探索と調整|第26回日本音楽療法学会シンポジウム(三宅)

【指定討論】質的研究の舞台裏:知りたいことを知るための研究方法をめぐる探索と調整|第26回日本音楽療法学会シンポジウム(三宅)

公開日:

2026.10.9

    更新日:

    2026.10.9

      • #研究の方法

      三宅 博子

      国立音楽大学教員。日本音楽療法学会認定音楽療法士。兵庫県音楽療法士。「おとむすび・おんがくクラブ」世話人。

       私は今回、指定討論者として登壇しました。話題提供では、三者三様のユニークな研究の道のりが、疑問や葛藤、工夫のポイントも赤裸々に語られました。それぞれに魅力的で内容の濃い研究プロセスで、正直なところ準備段階から「どうやって指定討論したらいいの…?」と悩みまくりました。私は指定討論という役割をいただいていますが、質的研究の専門家というわけではありません。現在、障害のある人を含むメンバーと音楽活動を通じたアクションリサーチを行っており、方法の壁にぶち当たる「りんこま」メンバーのひとりです。そこで、いち実践者の立場から、話題提供で興味を持ったポイントについて、コメントや質問を考えてみました。

      話題提供者へのコメント

      生野里花さん

      「音楽療法士の経験」に関するグラウンデッド・セオリー分析で、紆余曲折を経ながら知りたいことを絞り込んでいく過程のなかで、いちばん興味を惹かれたのが「研究対話」というプロセスでした。これを思いついたときには、「得られたコードについて、いろんな人と話してみたらどうなるだろう?」というワクワクと同時に、それが研究とどう結びつくのかという不安もあったのではないかと思います。そのとき、どんな直観的な見通しがあったのか、また、どのようなきっかけで「腹をくくる」ことができたのかを聞いてみたいと思いました。

      伊藤孝子さん

      「音楽療法士の一日に同行する」という手法自体がとてもユニークで、音楽療法セッションの内側から、セッションを取り巻く生活や実践へと研究の視点をずらしていく発想には、「その手があったか!」という思いでした。音楽療法士の生活世界を案内してもらうことで得られる「経験知」が新鮮である一方、案内される研究者自身の経験にも興味が湧きました。移動によって視座がひらかれていくことと同時に、「よりどころのなさ」のような感覚もあるのではないか? また、同僚の音楽療法士に「研究として」同行するとき、普段の関係とどのように構えや経験が変わるのかについても、聞いてみたいと思いました。

      小柳玲子さん 

      研究そのものを参加者にひらいて「共に研究する」コミュニティ参加型の研究は、多様な人々と関わる音楽療法研究において、関心の高いもののひとつだと思います。一方で、どうすれば形だけではなく、本当に「共に」研究することができるのかがポイントです。メンバーを集め、語り合い、そこで生まれた言葉をまた返していくという、丁寧で具体的な関わりがとても印象的でした。このプロセスを通じて、研究パートナーである「おとむすびを考える会(OKK)」のメンバーの主体意識(研究への関わり方や、自分たちの活動を捉える感覚)にどのような変化があったのか、また、メンバー自身がその変化をどう感じているのかに興味が湧きました。

      知りたいことを知るための道のり

       話題提供者のお話を伺っていると、知りたいことを知るための道のりは、じつにさまざまです。一方で、もやもやとした「知りたいこと」が「知」として形づくられていく過程には、その道筋を方向づけるいくつかの“枠”となる要素があるようです。ただし、その“枠”は最初から決まっているものとは限りません。以下、このことについて考えてみます。

       研究デザインには、あらかじめ問いや方法を組み立てる「計画的・意図的な側面」と、研究を進めながら、起きたことに応じて問いや方法を柔軟に編み直していく「創発的な側面」があります。とくに質的研究では創発性が重要といわれますが、実際の研究では、この二つはどのように組み合わされているのでしょうか。

       

       今回の話題提供では、研究者があらかじめすべてを意図的に選択してデザインしているというよりも、予期しなかった出来事や他者との出会い、そのときどきの迷いや判断に応答するなかで、振り返ってみるとひとつの研究デザインが形づくられているように思われます。「意図しなかったこと」もまた、結果的に研究デザインを形作る枠組みとなっていく。3人の研究には、そのようなプロセスがあったのではないでしょうか。

       

       生野さんの場合は、いろんな研究方法からひとつを選んで試行錯誤するなかで、「そうしたかったけれど、できなかったこと」や、「知りたかったけれど、得られなかったこと」がありました。それらに応じて研究方法が変わり、同時に、研究の問いも絞られていきました。伊藤さんの場合は、既存の「知る方法」や枠組みへの疑問から出発して、音楽療法士のセッション外の実践に目を向けます。そこから、「音楽療法士の一日についていく」という方法へとつながっていきました。小柳さんの場合も、「誰が知るのか」という問いから始まり、おとむすびのユーザー自身が研究に参加するための方法として、「おとむすびを考える会(OKK)」が生まれています。

       このように、研究の道筋を形づくるものには、研究者の「外」との対話や衝突、葛藤も含まれます。対話するピア音楽療法士、関連する職種や領域、研究に関心を寄せる人たち、そして倫理審査や学会といった研究コミュニティです。さらに、その下敷きには、研究者自身も十分には意識していない前提や、研究者が大切にしている理念があります。こうした内と外のさまざまな要素とのやり取りを通して、研究方法が変わり、問いが絞られ、研究の枠組みが形づくられていくのだと考えられます。

      研究方法をデザインすること

       こうして考えてみると、「研究方法をデザインする」とは、完成した設計図を最初につくることだけではなく、起きていることに応答しながら、その都度方向を調整し、後からその道筋を捉え直して、研究として意味づけていくことも含むのではないでしょうか。だとするならば、今回お見せしてきた「舞台裏」、すなわち、思いつきや方向転換、葛藤、悩み、工夫のプロセスひとつひとつもまた、質的研究の方法の一部であると言ってよいのかもしれません。

       指定討論の最後に、話題提供者やフロアの方々に問いかけてみたい質問を挙げました。(シンポジウムあるあるで、ディスカッションの時間が足りなかったのですが…)。

       この記事をご覧の皆さんとも、いつかゆっくりお話ししてみたいです。